July 26, 2022, JST

推力発生の応答性について確認試験を実施

H. Kurumatani,
A. Nakamura,
T. Hayashi

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推力測定

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モータドライブ

無人航空機 (UAV) の制御特性向上に向けて、モータ駆動によるプロペラ発生推力のダイナミクスを調査しました。プロペラ駆動システムに対して推力指令値を送信してから実際に推力出力が得られるまでには時間的な遅れがあり、この遅れ要素がUAVの制御性能を制限する要因となります。遅れ要素と制御性能の関係性については資料室の記事または学会活動報告をご参照ください。
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推力計測には株式会社ワコーテック製力覚センサ「DynPick WGF-3M50-5-RG5」を使用しました。本センサのサンプリング周波数は 2 kHz2\ {\rm kHz} であり、センサの特性として推力応答の遅れを計測するために十分な測定周波数帯域を有していることを確認しています。今回は以下のモータおよびプロペラを用いて試験を実施しました。
parts type vendor model
Motor BrotherHobby Avenger 2806.5 Motor 1300kv
Propeller Master Airskrew BN-3blade-FPV 5x4.5
Propeller Master Airskrew RS-3blade-FPV 5x4.5
Propeller T-MOTOR T5147
Propeller T-MOTOR T5143S
今回の試験では 5 inch5\ {\rm inch} のプロペラを使用しています。モータは我々が開発したセンサレスモータドライバによって駆動しました。このモータドライバは速度制御器を搭載しており、今回の試験では速度制御帯域を 300 rad/s300\ {\rm rad/s} と設定しています。推力測定はモータの回転数を 500019000 rpm5000\sim 19000\ {\rm rpm} の範囲で 1000 rpm1000\ {\rm rpm} 刻みで変化させて実施しました。はじめに、定常推力特性について確認します。本試験で得られた定常状態における回転数と発生推力の関係は以下のようになりました。
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プロペラの形状によって得られる推力が異なることが確認できます。発生推力が大きいほど最大推進加速度が増加するため、高速飛行を目的とする場合には回転数-推力比の大きいプロペラの仕様が望ましいと考えられます。この観点では BN-3blade-FPV 5x4.5 が優れています。一方で、長時間飛行を要求されるナビゲーション用途等では電力-推力変換効率を考慮した選定が必要になると考えられます。

続いて、推力の発生速度について確認します。回転速度指令値として 70008000 rpm7000\rightarrow 8000\ {\rm rpm} となるステップ信号を与えた場合の推力は以下のようになりました。ここで、薄色線はセンサ出力値、濃色線はオフライン処理した濾過波形を表します。このオフライン低域通過処理の遮断周波数は 40 Hz40\ {\rm Hz} としています。
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また、回転速度指令値として 1500016000 rpm15000\rightarrow 16000\ {\rm rpm} となるステップ信号を与えた場合の推力は以下のようになりました。
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各プロペラによって発生する推力は、固有の変化速度および振動持続性を有していることが確認できます。推力の振動はプロペラの材質および形状に依存するものと考えられます。持続振動はエネルギ損失および機体への外乱として作用するため、飛行時の回転数帯における振動特性をプロペラ選定基準として採用することも必要になると考えています。また、応答速度に関して時定数は以下のように計測されました。
Propeller 7 krpm → 8 krpm 15 krpm → 16 krpm
Master Airskrew BN-3blade-FPV 8.5 ms 12.3 ms
Master Airskrew RS-3blade-FPV 4.6 ms 6.3 ms
T5147 5.0 ms 6.9 ms
T5143S 4.8 ms 6.6 ms
全てのプロペラを使用した場合について、高回転時に時定数が増大する傾向が見られました。これは高回転時にプロペラに作用する空気抵抗力が大きいため、モータ速度制御系が影響を受けた結果と予想しています。特筆すべきこととして、回転数-推力比が優れていた BN-3blade-FPV 5x4.5 は他のプロペラと比較して発生推力の時定数が大きいことが確認できました。高性能な制御系の構築においては位相遅れの低減が不可欠であるため、この観点では RS-3blade-FPV 5x4.5 が優れていました。本試験を通じて、回転数-推力比と推力発生の時定数のトレードオフを考慮してプロペラの選定を行う必要があると知見を得ることができました。

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