線形制御系設計

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加速度制御に基づく運動制御

加速度は位置,速度および力に起因する運動を一元的に記述する運動方程式に表れる物理量であり,系の加速度を制御することは任意の運動を実現することに繋がる。ここでは加速度制御の概念的な理解について説明し、外乱オブザーバを用いた実装例および加速度制御系を用いた運動制御系の設計例を紹介する。

運動制御系の一般化

加速度制御はシステムの加速度を制御することを目的とした制御系であり,加速度制御系を構築することができれば統一的な設計方法によって運動制御系を設計することができる。例として,慣性 mm を持つ慣性体に対して力 fi (i=1,...,n)f_{\rm i}\ (i=1, ..., {\rm n}) が作用する運動系について考える。この系の支配方程式および加速度は,xx を慣性体の座標として次のように表される。
mx¨=i=1nfix¨=m1i=1nfi\begin{align} m\ddot{x} &= \sum_{{\rm i}=1}^{\rm n} f_{\rm i} \\ \therefore \ddot{x} &= m^{-1}\sum_{{\rm i}=1}^{\rm n} f_{\rm i} \end{align}
上記の加速度を生成することができれば例示した運動を模擬することが可能であり,加速度制御が達成される場合には制御対象固有の特性を隠蔽して制御系を設計することができる。制御形の構築の観点から見れば,加速度制御を実現することはプラントの見かけ上の慣性 (仮想慣性) を 11 とすることであり,制御器の生成する力参照値とプラントの加速度が一致することと捉えることができる。すなわち,系の入出力が次のように記述されるように制御する。
x¨=f¨ref\begin{align} \ddot{x} = \ddot{f}^{\rm ref} \end{align}
所望の運動を実現するに当たり,運動方程式を厳密に考慮して必要な駆動力または駆動トルクを算出して利用する方法が提案されており,これを計算トルク法と呼ぶ。すなわち,加速度制御系と計算トルク法を組み合わせることで,運動制御系の設計を発生加速度に焦点を当てた制御入力決定問題に落とし込むことができる。これは加速度決定問題と等価であり,力参照値を加速度参照値として再定義することで,位置,速度,力を統一的に取り扱う制御系について見通しの良い設計が可能となる。
x¨reff¨ref\begin{align} \ddot{x}^{\rm ref} \equiv \ddot{f}^{\rm ref} \end{align}
これについて,以下では加速度制御系の構築方法および運動制御系の設計方法の一例を示す。

外乱オブザーバを用いた加速度制御系

外乱オブザーバは二自由度制御系の構築を補助するものであり,制御系に独立した外乱抑圧特性の設計自由度を与える。 ここでは一自由度の回転自由度を有する同期モータに対して加速度制御系を構築することを考える。 同期モータの運動方程式は次のように記述されるものとする。
Jθ¨=τm+τdτm=Ktiq\begin{align} J\ddot{\theta} &= \tau_{\rm m} + \tau_{\rm d} \\ \tau_{\rm m} &= K_{\rm t}i_{q} \end{align}
ただし,J,θ,τm,τdJ, \theta, \tau_{\rm m}, \tau_{\rm d} はそれぞれモータ慣性,モータ回転角度,モータトルクおよび外乱トルクを表し,モータトルクはモータトルク定数 KtK_{\rm t}qq 軸方向の電機子電流 iqi_{q} の積によって決定するものとする。このシステムにおける観測量は θ\theta とする。ここで,駆動トルク参照値を τref\tau^{\rm ref},プラントのノミナルモデルを下添字 n_{\rm n} を用いて表すものとし,制御入力量 iqi_{q} を次のように設計することで加速度制御系としての参照値追従性が確立する。
iq=Ktn1Jnτrefθ¨=J1KtKtn1Jnτref+J1τd=τref(1J1KtKtn1Jn)τref+J1τd\begin{align} i_{q} &= K_{\rm tn}^{-1}J_{\rm n}\tau^{\rm ref} \\ \rightarrow \ddot{\theta} &= J^{-1}K_{\rm t}K_{\rm tn}^{-1}J_{\rm n}\tau^{\rm ref} + J^{-1}\tau_{\rm d} \\ &= \tau^{\rm ref} - (1 - J^{-1}K_{\rm t}K_{\rm tn}^{-1}J_{\rm n})\tau^{\rm ref} + J^{-1}\tau_{\rm d} \end{align}
続いて,外乱オブザーバを用いて外乱抑圧特性を確保することを考える。外乱オブザーバの推定値を τ^d\hat{\tau}_{\rm d} として,制御入力量 iqi_{q} を次のように設計する。
τ^d=Q(Ktniq+s2Jnθ)iq=Ktn1JnτrefKtn1τ^d=Ktn1(Jnτrefτ^d)\begin{align} \hat{\tau}_{\rm d} &= Q(-K_{\rm tn}i_{q} + s^2J_{\rm n}\theta) \\ i_{q} &= K_{\rm tn}^{-1}J_{\rm n}\tau^{\rm ref} - K_{\rm tn}^{-1}\hat{\tau}_{\rm d} \\ &= K_{\rm tn}^{-1}(J_{\rm n}\tau^{\rm ref} - \hat{\tau}_{\rm d}) \end{align}
ただし,QQ は相対次数 22 以上の外乱推定フィルタとする。このとき,制御入力量に関して次の代数方程式が成立する。
iq=Ktn1(Jnτref+QKtniqs2QJnθ)=Ktn1{Jnτref+QKtniqQJnJ1(Ktiq+τd)}iq=Ktn1(1Q+QJnJ1KtKtn1)1(JnτrefQJnJ1τd)\begin{align} i_{q} &= K_{\rm tn}^{-1}(J_{\rm n}\tau^{\rm ref} + QK_{\rm tn} i_{q} - s^2QJ_{\rm n}\theta) \\ &= K_{\rm tn}^{-1}\left\{ J_{\rm n}\tau^{\rm ref} + QK_{\rm tn} i_{q} - QJ_{\rm n}J^{-1}(K_{\rm t}i_{q} + \tau_{\rm d}) \right\} \\ \rightarrow i_{q} &= K_{\rm tn}^{-1}(1-Q + QJ_{\rm n}J^{-1}K_{\rm t}K_{\rm tn}^{-1})^{-1}(J_{\rm n}\tau^{\rm ref} - QJ_{\rm n}J^{-1}\tau_{\rm d})\\ \end{align}
ここで,系の支配方程式について以下の解を得る。
s2θ=J1KtKtn1(1Q+QJnJ1KtKtn1)1(JnτrefQJnJ1τd)+J1τd=Tryτref+TdyτdTryJ1KtKtn1(1Q+QJnJ1KtKtn1)1JnTdyJ1KtKtn1(1Q+QJnJ1KtKtn1)1(1Q)KtnKt1\begin{align} s^2\theta &= J^{-1}K_{\rm t} K_{\rm tn}^{-1}(1-Q + QJ_{\rm n}J^{-1}K_{\rm t}K_{\rm tn}^{-1})^{-1}(J_{\rm n}\tau^{\rm ref} - QJ_{\rm n}J^{-1}\tau_{\rm d}) + J^{-1}\tau_{\rm d}\\ &= T_{\rm ry}\tau^{\rm ref} + T_{\rm dy}\tau_{\rm d} \\ T_{\rm ry} &\equiv J^{-1}K_{\rm t} K_{\rm tn}^{-1}(1-Q + QJ_{\rm n}J^{-1}K_{\rm t}K_{\rm tn}^{-1})^{-1}J_{\rm n}\\ T_{\rm dy} &\equiv J^{-1}K_{\rm t} K_{\rm tn}^{-1}(1-Q + QJ_{\rm n}J^{-1}K_{\rm t}K_{\rm tn}^{-1})^{-1}(1-Q)K_{\rm tn} K_{\rm t}^{-1} \end{align}
ただし,TryT_{\rm ry} および TdyT_{\rm dy} は追従特性および外乱抑圧特性を表す。この制御系のノミナル性能は次のようになる。
Try,n=1Tdy,n=Jn1(1Q)\begin{align} T_{\rm ry,n} &= 1\\ T_{\rm dy,n} &= J_{\rm n}^{-1}(1-Q) \end{align}
したがって,フィルタ QQ の外乱推定帯域内では外乱の影響が抑圧され,プラントの加速度が駆動トルク参照値に追従する。ここで,駆動トルク参照値 τref\tau^{\rm ref} を加速度参照値 θ¨ref\ddot{\theta}^{\rm ref} として書き直すことで,加速度制御系の実現が確認できる。
s2θ=θ¨ref+Jn1(1Q)τd\begin{align} s^2\theta &= \ddot{\theta}^{\rm ref} + J_{\rm n}^{-1}(1-Q)\tau_{\rm d} \end{align}

運動制御系の設計

運動制御では主に一般化座標系における位置や速度,および外環境に対する作用力または反作用力等を制御目標とする。加速度制御系が構築されている場合,これらの制御目標は単純な制御器を設計することで達成することができる。以下では一般化位置を qq,一般化力を ff として,各制御系について単純な構造を持つ場合の構成例を述べる。

位置制御

加速度制御が実現する場合,加速度参照値から位置応答までの開ループ伝達特性は次のように表される。
q=s2q¨ref\begin{align} q = s^{-2}\ddot{q}^{\rm ref} \end{align}
このシステムに対して位置フィードバック制御系を設計することを考える。位置参照値を rqr_{q},フィードバック制御器の伝達特性を CqC_{q} として,加速度参照値を次のように生成する。
q¨ref=Cq(rqq)\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} = C_{q}(r_{q} - q) \end{align}
このとき,閉ループ伝達特性は以下のようになる。
q=s2Cq(rqq)q=Cqs2+Cqrq\begin{align} q &= s^{-2}C_{q}(r_{q} - q) \\ \Leftrightarrow q &= \frac{C_{q}}{s^2 + C_{q}}r_{q} \end{align}
ここで,制御器 CqC_{q} としてPD制御器を選べば,閉ループ系は二次遅れ系となる。
Cq=Kp+sKdq=Kds+Kps2+Kds+Kprq\begin{align} C_{q} &=K_{\rm p} + sK_{\rm d} \\ \rightarrow q &= \frac{K_{\rm d}s + K_{\rm p}}{s^2 + K_{\rm d}s + K_{\rm p}}r_{q} \end{align}
このとき,PD制御器の設計について閉ループ系の所望の減衰率を ζq\zeta_{q},固有角周波数を ωq\omega_{q} として以下のように設計すれば,伝達特性を直接指定する形で位置制御系を構築をすることができる。
[KdKp]=[2ζqωqωq2]q=2ζqωqs+ωq2s2+2ζqωqs+ωq2rq\begin{align} \begin{bmatrix} K_{\rm d} & K_{\rm p} \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} 2\zeta_{q}\omega_{q} & \omega_{q}^2 \end{bmatrix} \\ \rightarrow q &= \frac{2\zeta_{q}\omega_{q}s + \omega_{q}^2}{s^2 + 2\zeta_{q}\omega_{q}s + \omega_{q}^2}r_{q} \end{align}
以上より,加速度制御系を構築した上で位置制御系を構築することで,プラントの特性に依存しない一般化された設計が可能となる。ただし,設定可能な減衰率および固有角周波数はプラントの特性に依存することに留意する。

速度制御

加速度制御が実現する場合,加速度参照値から速度応答までの開ループ伝達特性は次のように表される。
q˙=s1q¨ref\begin{align} \dot{q} = s^{-1}\ddot{q}^{\rm ref} \end{align}
このシステムに対して速度フィードバック制御系を設計することを考える。速度参照値を rvr_{v},フィードバック制御器の伝達特性を CvC_{v} として,加速度参照値を次のように生成する。
q¨ref=Cv(rvq˙)\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} = C_{v}(r_{v} - \dot{q}) \end{align}
このとき,閉ループ伝達特性は以下のようになる。
q˙=s1Cv(rvq˙)q˙=Cvs+Cvrv\begin{align} \dot{q} &= s^{-1}C_{v}(r_{v} - \dot{q}) \\ \Leftrightarrow \dot{q} &= \frac{C_{v}}{s + C_{v}}r_{v} \end{align}
ここで,制御器 CvC_{v} としてP制御器を選べば,閉ループ系は一次遅れ系となる。
Cv=Kpq˙=Kps+Kprv\begin{align} C_{v} &=K_{\rm p} \\ \rightarrow \dot{q} &= \frac{K_{\rm p}}{s + K_{\rm p}}r_{v} \end{align}
このとき,P制御器の設計について閉ループ系の所望の固有角周波数を ωv\omega_{v} として以下のように設計すれば,伝達特性を直接指定する形で速度制御系を構築をすることができる。
Kp=ωvq˙=ωvs+ωvrv\begin{align} K_{\rm p} &= \omega_{v} \\ \rightarrow \dot{q} &= \frac{\omega_{v}}{s + \omega_{v}}r_{v} \end{align}
また,ランプ状の速度参照値への追従を実現するため,内部モデル原理に基いて制御器 CvC_{v} をPI制御器とする場合,閉ループ系は二次遅れ系となる。
Cv=Kp+s1Kiq˙=Kps+Kis2+Kps+Kirv\begin{align} C_{v} &=K_{\rm p} + s^{-1}K_{\rm i} \\ \rightarrow \dot{q} &= \frac{K_{\rm p}s + K_{\rm i}}{s^2 + K_{\rm p}s + K_{\rm i}}r_{v} \end{align}
この制御系の特性は位置フィードバック系のPD制御系と本質的に等しく,速度のP制御が位置のD制御に,速度のI制御が位置のP制御に相当する。実装上の問題として,位置制御系を用いて速度制御を実現する場合には位置参照値として速度参照値の積分値を設定する必要があり,計算機のオーバーフローの危険があるため採用すべきではない。

力制御系

力制御は外環境に対する作用力を制御する場合に使用される。ここでは外環境の物理特性が既知であるとし,物体に対する作用力とそれによって生じる変位速度の比によって定義される機械インピーダンスを用いて説明する。外環境の機械インピーダンスおよび反力を Zm,freacZ_{\rm m}, f^{\rm reac} と表現し,プラントの接触作用に際してこれらが次のように記述される場合について考える。簡単のため,ZmZ_{\rm m} は環境の状態に依存せず,また時不変とする。
freac=Zmq˙\begin{align} f^{\rm reac} &= Z_{\rm m}\dot{q} \end{align}
加速度制御が実現する場合,加速度参照値から反力応答までの開ループ伝達特性は次のように表される。
freac=s1Zmq¨ref\begin{align} f^{\rm reac} &= s^{-1}Z_{\rm m}\ddot{q}^{\rm ref} \end{align}
このシステムに対して反力フィードバック制御系を設計することを考える。反加速度参照値を rfr_{f},フィードバック制御器の伝達特性を CfC_{f} として,加速度参照値を次のように生成する。
q¨ref=Cf(rffreac)\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} = C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) \end{align}
このとき,閉ループ伝達特性は以下のようになる。
freac=s1ZmCf(rffreac)freac=ZmCfs+ZmCfrf=ZmCf1s+Zmrf\begin{align} f^{\rm reac} &= s^{-1}Z_{\rm m}C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) \\ \Leftrightarrow f^{\rm reac} &= \frac{Z_{\rm m}C_{f}}{s + Z_{\rm m}C_{f}}r_{f} = \frac{Z_{\rm m}}{C_{f}^{-1}s + Z_{\rm m}}r_{f} \end{align}
この伝達特性は,反力制御の応答を阻害する要因がプラントの慣性力であることを示しており,CfC_{f} の設計によりプラントの仮想慣性を小さくすることで反力応答が素早く参照値に追従することを示している。ここで,制御器 CfC_{f} としてP制御器を選べば,プラントは仮想慣性 Cf1C_{f}^{-1} の慣性体して振る舞う。

速度フィードバックの併用

物体に対する押し圧を制御するためには,物体の復元力とプラントの作用力が釣り合う必要がある。このような場合には物体が剛性を持ち,機械インピーダンスが s1s^{-1} の項を持つ。物体の機械インピーダンスが次のように表現される場合について考える。
Zm=de+kes1\begin{align} Z_{\rm m} = d_{\rm e} + k_{\rm e}s^{-1} \end{align}
このシステムに対して力制御系を設置した場合,閉ループ伝達関数は次のようになる。
q¨ref=Cf(rffreac)freac=s1ZmCf(rffreac)freac=des+keCf1s2+des+kerf\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} &= C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) \\ \rightarrow f^{\rm reac} &= s^{-1}Z_{\rm m}C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) \\ \Leftrightarrow f^{\rm reac} &= \frac{d_{\rm e}s + k_{\rm e}}{C_{f}^{-1}s^2 + d_{\rm e}s + k_{\rm e}}r_{f} \end{align}
ここで,速度フィードバック制御器を設置することで,閉ループ伝達関数は次のように設定することができる。
q¨ref=Cf(rffreac)Kvq˙=Cf(rfZmq˙)Kvq˙q˙=s1{Cf(rfZmq˙)Kvq˙}q˙=1Cf1s+Zm+Cf1Kvrffreac=des+keCf1s2+(Cf1Kv+de)s+kerf\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} &= C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) - K_{v}\dot{q} \\ &= C_{f}(r_{f} - Z_{\rm m}\dot{q}) - K_{v}\dot{q} \\ \rightarrow \dot{q} &= s^{-1}\left\{ C_{f}(r_{f} - Z_{\rm m}\dot{q}) - K_{v}\dot{q} \right\} \\ \Leftrightarrow \dot{q} &= \frac{1}{C_{f}^{-1}s + Z_{\rm m} + C_{f}^{-1}K_{v}}r_{f} \\ \therefore f^{\rm reac} &= \frac{d_{\rm e}s + k_{\rm e}}{C_{f}^{-1}s^2 + (C_{f}^{-1}K_{v} + d_{\rm e})s + k_{\rm e}}r_{f} \\ \end{align}
したがって,速度フィードバック制御器を導入することで伝達特性の減衰率を向上することができる。また,押し圧参照値として大きさ cc のステップ信号を選んだ場合に反力応答の収束値は以下のようになり,速度フィードバックは定常特性を損なわないことが確認できる。
limtfreac(t)=lims0sdes+keCf1s2+(Cf1Kv+de)s+kecs=c\begin{align} \lim_{t\rightarrow \infty} f^{\rm reac}(t) &= \lim_{s\rightarrow 0} s \frac{d_{\rm e}s + k_{\rm e}}{C_{f}^{-1}s^2 + (C_{f}^{-1}K_{v} + d_{\rm e})s + k_{\rm e}} \frac{c}{s} \\ &= c \end{align}
以上より、力制御器のみを導入した場合に応答が振動的になる場合には、速度フィードバックを導入することが有効となる。ただし、速度フィードバックはバックドライバビリティの低下に繋がり、物体の運動を阻害することに留意する。

統合型制御系

加速度制御に基づいて運動制御系を構成する場合,設計問題は加速度参照値の設計に帰着し,位置・速度・力制御系を統一的な枠組みで設計することができた。これらを統合して各制御を切り替えられるよう,次のように加速度参照値を生成することを考える。
q¨ref=Cq(rqq)+Cv(rvq˙)+Cf(rffreac)\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} = C_{q}(r_{q} - q) + C_{v}(r_{v} - \dot{q}) + C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) \end{align}
ここで,運動においては位置と速度は従属関係にあり,力の平衡状態では位置と速度が不定となるため,同時に複数の状態量を独立に制御することはできない そのため,この制御系を使用する際にはいずれかの状態量のみに対して参照値を与え,その他の参照値は 00 とする必要がある。一方の各制御器の設計について,零速度指令制御はプラントの仮想インピーダンスを変化させる働き,零力指令制御は外力に対するコンプライアンスを変化させる働きを持つため,必ずしも伝達特性を 00 とする必要はない。制御対象とする状態量の参照値追従性能を阻害しない範囲に限り,各制御器設計により次項に示す制御剛性を調整する設計自由度が与えられる。

制御剛性

目標タスクが与えられた時、それを達成する動作は自身と外環境の情報を参照して計画され、この動作の実行には位置や速度、力覚などの情報が利用される。位置や速度を基準とする動作では外乱の影響を抑圧する運動が選択され、力を基準とする動作では外力に倣う運動や平衡位置からの偏差に応じて力を発生する運動が選択される。ここで重要なことは、タスク達成のためには制御系の参照値追従特性に加え、外環境からの外力に対する応答性を設計する必要があるという点である。人間の運動メカニズムに対する統制・指揮能力を研究するモータコントロールの分野においても、人間は動作実行時に効果器の機械インピーダンスを調整することが報告されている[1, 2]。運動制御系においては,制御系の外力に対する応答性指標として制御剛性が定義される。
κ=fq\begin{align} \kappa = -\frac{\partial f}{\partial q} \end{align}
機械インピーダンスの定義と異なり,本指標は剛性に関連する指標であるため,外力と変位量の比として定義される。以下では先述の統合型制御系を用いて位置および力制御を行った場合の制御剛性について確認する。

位置制御系

加速度制御系に対して,加速度参照値を次のように設計することを考える。ただし,初期条件として q(0)=0,q˙(0)=0q(0)=0, \dot{q}(0)=0 が与えられるものとする。
q¨ref=Cq(rqq)Cvq˙Cffreac\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} = C_{q}(r_{q} - q) - C_{v}\dot{q} -C_{f}f^{\rm reac} \end{align}
このとき,位置と外力の関係は次のように表される。
s2q=Cq(rqq)sCvqCffreacq=1s2+sCv+Cq(CqrqCffreac)\begin{align} s^2q &= C_{q}(r_{q} - q) - sC_{v}q -C_{f}f^{\rm reac} \\ \Leftrightarrow q &= \frac{1}{s^2 + sC_{v} + C_{q}}(C_{q}r_{q} - C_{f}f^{\rm reac}) \\ \end{align}
したがって,制御剛性は次のように表される。
κ={s2Cf1+Cf1(sCv+Cq)(Cf>0)0(Cf=0)\begin{align} \kappa = \left\{ \begin{matrix} s^2C_{f}^{-1} + C_{f}^{-1}(sC_{v} + C_{q}) & (C_{\rm f} \gt 0) \\ 0 & (C_{\rm f} = 0) \\ \end{matrix} \right. \end{align}
これは位置参照値を平衡点とし,その平衡点からの変位に対する剛性を示している。この値を調整することにより,プラントの外力応答特性を考慮した位置決めが達成される。例として,プラントの仮想慣性,仮想粘性および仮想剛性をそれぞれ jv,dv,kvj_{\rm v}, d_{\rm v}, k_{\rm v} とした位置決めは,各制御器を次のように設計することで達成される。
[CqCvCf]=[jv1kvjv1dvjv1]\begin{align} \begin{bmatrix} C_{q} & C_{v} & C_{f} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} j_{\rm v}^{-1}k_{\rm v} & j_{\rm v}^{-1}d_{\rm v} & j_{\rm v}^{-1} \end{bmatrix} \end{align}
制御剛性を低く設定する場合には一自由度制御系による追従性能の確保が困難となるため,二自由度制御系を構築することが望ましい。

力制御系

加速度制御系に対して,加速度参照値を次のように設計することを考える。ただし,初期条件として q(0)=0,q˙(0)=0q(0)=0, \dot{q}(0)=0 が与えられるものとする。
q¨ref=Cf(rffreac)Cvq˙\begin{align} \ddot{q}^{\rm ref} = C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) - C_{v}\dot{q} \end{align}
このとき,位置と外力の関係は次のように表される。
s2q=Cf(rffreac)Cvq˙q=Cfs2+sCv(rffreac)\begin{align} s^2q &= C_{f}(r_{f} - f^{\rm reac}) - C_{v}\dot{q} \\ \Leftrightarrow q &= \frac{C_{f}}{s^2 + sC_{v}}(r_{f} - f^{\rm reac}) \\ \end{align}
したがって,制御剛性は次のように表される。
κ={s2Cf1+sCf1Cv(Cf>0)0(Cf=0)\begin{align} \kappa = \left\{ \begin{matrix} s^2C_{f}^{-1} + sC_{f}^{-1}C_{v} & (C_{\rm f} \gt 0) \\ 0 & (C_{\rm f} = 0) \\ \end{matrix} \right. \end{align}
これは力の平衡状態から発生させた変位に対する剛性を示している。この値を調整することにより,プラントの外力応答特性を考慮した力制御が達成される。例として,プラントの仮想慣性および仮想粘性をそれぞれ jv,dvj_{\rm v}, d_{\rm v} とした力制御は,各制御器を次のように設計することで達成される。
[CvCf]=[jv1dvjv1]\begin{align} \begin{bmatrix} C_{v} & C_{f} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} j_{\rm v}^{-1}d_{\rm v} & j_{\rm v}^{-1} \end{bmatrix} \end{align}
力制御において制御剛性を高く設定することは環境の運動を阻害することとなるため,この値は用途に応じて設定する必要がある。

参考文献

[1]D. Rosenbaum, "Human motor control," in Academic Press., 2009.
[2]R. Osu, K. Morishige, H. Miyamoto, and M. Kawato, "Feedforward impedance control efficiently reduce motor variability," in Neuroscience Research, vol. 65, no. 1, pp. 6–10, Sept. 2009.

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