ラプラス変換は時間領域の関数から複素平面の関数への写像であり、制御分野では時間領域で与えられた線形微分方程式を複素平面上の代数方程式に変換することに使用される。線形微分方程式を解くことは代数方程式を解くことに帰着し、得られた複素関数は時間領域における信号の周波数特性に関する特徴量を持つことから、システムの表現に明瞭性を与えることができる。以下ではラプラス変換の定義から導入し、微分方程式の解の導出と周波数特性の確認を行う。
時刻
[0,∞) で定義された関数
f(t) について、複素数
s を用いた以下の変換が有限値に収束するとき、
F(s) を関数
f(t) のラプラス変換と呼び、ラプラス変換が存在する
s の領域を収束域と呼ぶ。
LF(s):f(t)↦∫0∞f(t)e−stdt=L[f(t)]
ここで、
f(t) を原関数、
F(s) を像関数と呼ぶ。また、ラプラス変換が存在する条件は次のように表現される。
t→∞limf(t)e−st=0
したがって、関数
f(t) が実定数
C,a に対して次の条件を満たすとき、収束域を定めることできる。
∣f(t)∣<Ce−att→∞limCe−(s+a)t<0∴s={c∈→f(τ)e−sτ<Ce−(s+a)t→Re[s]+a>0C ∣ Re[c]>−a}
複素平面上の代数方程式の解から時間領域の微分方程式の解を求めるためには、像関数
F(s) から原関数
f(t) を計算する必要がある。このような変換を逆ラプラス変換と呼び、次のように定義される。
L−1f(t):F(s)↦ω→∞lim∫σ−jωσ+jωF(s)estds=L−1[F(s)]
ラプラス変換と逆ラプラス変換が互いに逆変換となることから、像関数
F(s) を部分分数分解した後にラプラス変換表を参照して原関数
f(t) を計算することもできる。この方法では、像関数が次数の少ない多項式から構成される有理関数で与えられる場合に簡潔に原関数を求めることができる。
複素平面の像関数
F(s) が共通因子を持たない実数係数多項式
N(s),D(s)によって有理関数として表現される場合を考える。
F(s)=D(s)N(s)
代数学の基本定理より複素数係数を持つ
n 次多項式は複素数の範囲で重解を含めて
n 個の解を持つことが示されていることから、分母多項式
D(s) を総乗形式で表記する。
D(s)=i=1∏p(s−ai)ni
ここで、
ai は像関数
F(s) の極であり、
ni は極の重複度を表す。ヘヴィサイドの展開定理は、像関数
F(s) の部分分数分解表現を次のように与える。
F(s)Aij=i=1∑pj=1∑ni(s−ai)jAij≡(ni−j)!1s→ailimdsni−jdni−j[(s−ai)niF(s)]
部分分数の一般系の逆ラプラス変換から、原関数
f(t) を以下のように計算することができる。
L−1→f(t)[(s−a)nA]=(n−1)!Atn−1eat=L−1[i=1∑pj=1∑ni(s−ai)jAij]=i=1∑pj=1∑niL−1[(s−ai)jAij]=i=1∑pj=1∑ni(j−1)!Aijtj−1eait=i=1∑p(j=1∑ni(j−1)!Aijtj−1)eait
上記の結果は原関数が像関数の極に依存する指数関数の総和となることを示しており、応答速度が極位置に依存することが確認できる。この結果は重根が存在しない場合に次のように簡略化することができる。
AiF(s)∴f(t)=s→ailim(s−ai)F(s)=∏i=jp(ai−aj)N(ai)=i=1∑ps−aiAi=i=1∑ps−ai1∏i=jp(ai−aj)N(ai)=i=1∑p∏i=jp(ai−aj)N(ai)eait
動的システムをラプラス変換を用いて複素関数で表現し、時間領域におけるシステムの状態遷移を確認することを考える。ここでは状態
x(t)、入力
u(t) を持ち、動特性が定数
ζ,ωn によって決定される以下のシステムについて考える。ただし、状態の初期値を
x(0)=x˙(0)=0 とする。
x¨(t)=−2ζωnx˙(t)−ωn2x(t)+u(t)
両辺をラプラス変換することで、次の代数方程式を得る。ただし、
X(s),U(s) は
x(t),u(t)を原関数とするラプラス変換を表す。
(s2+2ζωns+ωn2)X(s)=U(s)
代数方程式を解くことにより、状態
x(t) のラプラス変換
X(s) が得られる。
X(s)=s2+2ζωns+ωn21U(s)
上式を逆ラプラス変換することにより微分方程式の解
x(t) を導出することができる。ここで、入出力の伝達特性を表した複素平面上の関数を伝達関数と呼び、次のように表現する。
G(s)≡U(s)X(s)=s2+2ζωns+ωn21
システムの入出力関係に関する代数方程式が得られているため、システムに対する入力のラプラス変換を与えれば出力のラプラス変換を得ることができる。このラプラス変換に対して逆変換を施すことで、応答の時間応答を確認することができる。以下ではシステムにインパルス入力および単位ステップ入力を印加した際の応答について確認する。
入力
u(t) をインパルス信号として得られるインパルス応答について確認する。このとき、状態
x(t) のラプラス変換
X(s)は次のように表される。
X(s)=s2+2ζωns+ωn21
0<ζ<1 の場合
ラプラス変換
X(s) は以下の極を持つ。
sp=−ωnζ±jωn1−ζ2
ヘヴィサイドの展開定理より、以下を得る。
x(t)=2jωn1−ζ21e−ωnζt+jωn1−ζ2t−2jωn1−ζ21e−ωnζt−jωn1−ζ2t=ωn1−ζ21e−ωnζt2jejωn1−ζ2t−ejωn1−ζ2t=ωn1−ζ21e−ωnζtsin(ωn1−ζ2t)
ラプラス変換
X(s) は以下の極を持つ。
sp=−ωn
ヘヴィサイドの展開定理より、以下を得る。
[A11A12]→x(t)=[01]=te−ωnt
ラプラス変換
X(s) は以下の極を持つ。
sp=−ωn(ζ±ζ2−1)
ヘヴィサイドの展開定理より、以下を得る。
x(t)=−2ωnζ2−11e−ωn(ζ+ζ2−1)t+2ωnζ2−11e−ωn(ζ−ζ2−1)t=2ωnζ2−11e−ωnζt(eωnζ2−1t−e−ωnζ2−1t)=ωnζ2−11e−ωnζtsinh(ωnζ2−1t)
入力
u(t) を単位ステップ信号として得られるステップ応答について確認する。このとき、状態
x(t) のラプラス変換
X(s)は次のように表される。
X(s)=s2+2ζωns+ωn21s1
0<ζ<1 の場合
ラプラス変換
X(s) は以下の極を持つ。
sp=0, −ωnζ±jωn1−ζ2
ヘヴィサイドの展開定理より、以下を得る。
x(t)=ωn21e0t−2ωn21−ζ21−ζ2−jζe−ωnζt+jωn1−ζ2t−2ωn21−ζ21+ζ2−jζe−ωnζt−jωn1−ζ2t=ωn21{1−e−ωnζt(2ejωn1−ζ2t+ejωn1−ζ2t+1−ζ2ζ2jejωn1−ζ2t−ejωn1−ζ2t)}=ωn21{1−e−ωnζt(cos(ωn1−ζ2t)+1−ζ2ζsin(ωn1−ζ2t))}=ωn21{1−1−ζ21e−ωnζtsin(ωn1−ζ2t+tan−1ζ1−ζ2)}
ラプラス変換
X(s) は以下の極を持つ。
sp=0, −ωn
ヘヴィサイドの展開定理より、以下を得る。
[A11A21A22]→x(t)=[ωn21−ωn21−ωn1]=ωn21e0t+(−ωn21−ωn1t)e−ωnt=ωn21{1−(1+ωnt)e−ωnt}
ラプラス変換
X(s) は以下の極を持つ。
sp=0, −ωn(ζ±ζ2−1)
ヘヴィサイドの展開定理より、以下を得る。
x(t)=ωn21e0t+2ωn2ζ2−1ζ−ζ2−1e−ωn(ζ+ζ2−1)t−2ωn2ζ2−1ζ+ζ2−1e−ωn(ζ−ζ2−1)t=ωn21{1−e−ωnζt(2ζ2−1ζ+ζ2−1eωnζ2−1t−2ζ2−1ζ−ζ2−1e−ωnζ2−1t)}=ωn21{1−e−ωnζt(ζ2−1ζsinh(ωnζ2−1t)+cosh(ωnζ2−1t))}