線形制御系設計

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線形システムの性質

システムが線形性を示す場合には複数入力に対する応答解析や入出力信号の周波数解析が可能であり,制御設計の見通しが立てやすくなる。制御対象の入出力が非線形性を示す場合であっても,その影響が十分に小さく,制御対象が大域的に線形性を示す場合には線形システムとして解析することができる。ここでは線形システムの定義と特徴について確認する。

定義

写像 ff が線形であるとは、ff がスカラー aaに対して加法性と斉次性を満たすことを示す。
f(x+y)=f(x)+f(y)f(ax)=af(x)\begin{align} f(x + y) &= f(x) + f(y)\\ f(ax) &= af(x) \end{align}
上記の性質をまとめて次の表現が使用される。
f(i=1naixi)=i=1naif(xi)\begin{align} f \left( \sum^{n}_{i=1} a_{i}x_{i} \right) &= \sum^{n}_{i=1} a_{i}f(x_{i}) \end{align}
システムが線形であるとは、システムへの入力から出力への写像が線形であることを示す。加法性より、システムが複数入力を有する場合に各入力の出力への影響を独立に計算することができる。また、任意の周波数の信号が線形システムを通過する場合に出力信号は入力信号と同じ周波数を持ち、周波数解析が容易であるという特徴を持つ。

重ね合わせの原理

線形システムに対して複数入力を与えた場合に,その出力が各入力に応じた出力の総和と一致することを重ね合わせの原理と呼ぶ。制御においては随意的に生成させる制御入力や突発的な外乱などの外因性入力がシステムに作用するため,それらの入出力応答を独立に確認できることは非常に有効な性質となる。この性質を数式で表現すると以下のようになる。
y(t)=f(u(t)+d(t))=f(u(t))+f(d(t))\begin{align} y(t) &= f\left( u(t) + d(t) \right) = f\left( u(t)\right) + f\left( d(t) \right) \end{align}
ただし,ff は線形システムを表し,u,d,yu, d, y はそれぞれ制御入力,外乱および出力を表すものとする。このことから,制御系に指令値を与えた際の指令値追従特性や,外乱が作用した際の外乱抑圧特性などを独立に議論することができる。

入出力特性の周波数独立性

重ね合わせの原理より,線形システムの入出力関係が入力信号の周波数に依存して決定し,周波数ごとの入出力関係が独立となることが確認できる。以下ではフーリエ級数展開を用いて入出力関係の周波数独立性を確認する。時間周期 TT を持つ周期信号 x(t)x(t) について,次のような三角級数によって表現する。
x(t)=a02+k=1(akcosωkt+bksinωkt)\begin{align} x(t) &= \frac{a_0}{2} + \sum^{\infty}_{k=1}\left( a_k\cos \omega_k t + b_k\sin \omega_k t\right) \end{align}
この展開をフーリエ級数展開と呼び、ai,bja_i, b_j はフーリエ係数と呼ばれる。ここではフーリエ級数が関数 x(t)x(t) に収束するものとし、収束条件については議論しない。フーリエ展開可能であるとき、周波数成分およびフーリエ係数は以下の値を取る。
ωk=2πTkak=2T0Tx(t)cosωktdtbk=2T0Tx(t)sinωktdt\begin{align} \omega_{k} &= \frac{2\pi}{T}k\\ a_k &= \frac{2}{T}\int^{T}_{0} x(t)\cos \omega_k t dt\\ b_k &= \frac{2}{T}\int^{T}_{0} x(t)\sin \omega_k t dt \end{align}
ここで,入力のうち周波数成分 ωk\omega_{k} を持つ要素を zkz_k として次のように表す。
zk(t)akcosωkt+bksinωkt\begin{align} z_{k}(t) \equiv a_k\cos \omega_k t + b_k\sin \omega_k t \end{align}
このとき,線形システム ff に対して x(t)x(t) を入力した際の応答 yy は次のように表される。
y(t)=f(x(t))=f(a02)+k=1f(zk(t))\begin{align} y(t) &= f(x(t)) \\ &= f\left(\frac{a_0}{2}\right) + \sum^{\infty}_{k=1}f\left( z_k(t) \right) \end{align}
以上より、線形システムの入出力特性は周波数ごとに記述され,それらは互いに独立となる。

線形写像の演算

線形写像 f,gf, g に対して和 f+gf + g および合成 gf g \circ f は線形写像となる。
(f+g)(x)f(x)+g(x)(gf)(x)g(f(x))\begin{align} (f + g)(x) &\equiv f(x) + g(x)\\ (g \circ f)(x) &\equiv g(f(x)) \end{align}
また、和および合成は交換可能である。
(f+g)(x)(g+f)(x)(gf)(x)(fg)(x)\begin{align} (f + g)(x) &\equiv (g + f)(x)\\ (g \circ f)(x) &\equiv (f \circ g)(x) \end{align}
入力が複数の並列接続された線形システムを通過し、その出力の総和が出力となる場合に全体システムは線形となる。また、入力が複数の直列接続された線形システムを通過する場合も全体システムは線形となる。構成要素の線形システムの順序を変更した場合にも、入出力関係は変化しない。

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