Youla パラメトリゼーション (Youla-Kučera パラメトリゼーション) はプラントが与えられた際に安定化制御器の集合を与える。これはフィードバック制御系の作用を理解する上で重要な視点を与える。
1入力1出力系システム (SISO) について,開ループ安定なプラント
P が与えられた際にフィードバック制御器
C を設置した場合の参照値
r から出力
y までの閉ループ伝達関数
Gc は次のように表される。ただし,
u,d は制御入力および外乱とする。
yu→Gc=P(u+d)=C(r−y)=1+PCPC
ここで,閉ループ伝達関数を
GcdP とするフィードバック制御器は次のようになる。
C=1−PGcdGcd
ただし,
Gcd は安定かつプロパなシステムとする。この制御器を使用することにより,プラントの極を相殺する零点設計を許容すれば任意の極配置を実現することができる。すなわち,全ての安定な閉ループ系は(4)式の制御器によって実現することができる。
SISOプラント
P が規約多項式
N,D を用いて次のように記述されるものとする。
P=DN
このシステムの閉ループ系を安定化させるフィードバック制御器は次のように与えられる。
C={Y−NQX+DQ Q∈Ω, YD+XN=1}
ただし,
X,Y,Q はフリーパラメータを表し,
Ω は安定かつプロパな系の集合とする。
X,Yに関する制約はBézoutの等式である。Youla パラメトリゼーションはBézoutの等式を満たす
X,Y によって構成される制御器
C0=Y−1X を見つけることができれば,任意の安定かつプロパなシステム
Q を使用して安定化コントローラを設計できることを主張している。この制御器を設置した際の閉ループ伝達関数は次のように表される。
Gc=1+PCPC=D(Y−NQ)+N(X+DQ)N(X+DQ)=N(X+DQ)
ここで,閉ループ系を安定化し,かつ任意の極配置を実現することを考える。所望の極配置を持つ安定かつプロパなシステムを
Gcd として,閉ループ伝達関数を等しい極配置を有する関数
NGcd とするためには,
Q を次のように設計すれば良い。
Q=D−1(Gcd−X)
これは
Q の設計により任意の極配置を有する安定かつプロパな閉ループ伝達関数の実現が可能であることを示す。すなわち,(6)式の制御器はSISO系に対する安定化制御器の集合を与える。
MIMOプラント
P の右規約分解および左規約分解が次のように与えられるものとする。
P=ND−1=D~−1N~
このとき,次のBézoutの等式を満たす制御器
C0=XY−1=Y~−1X~ を見つけることができれば,任意の安定な閉ループ系を構築することができる。
[Y~−N~X~D~][DN−XY]=I
その際の制御器
C は次のように記述される。
C=(X+DQ)(Y−NQ)−1=(Y~−QN~)−1(X~+QD~)
右規約分解および左規約分解された制御器は等価となる。Bézoutの等式より,次の4つの制約が存在する。
X~N+Y~DNX~+DY~−Y~X+X~Y−N~D+D~N=I=I=0=0
この制約の下,次の等式が成立する。
⇔⇔⇔(X+DQ)(Y−NQ)−1=(Y~−QN~)−1(X~+QD~)(Y~−QN~)(X+DQ)=(X~+QD~)(Y−NQ)Y~X+Y~DQ−QN~X−QN~DQ=X~Y−X~NQ+QD~Y−QD~NQ(Y~X−X~Y)+(Y~D+X~N)Q−Q(N~X+D~Y)−Q(N~D−D~N)Q=0
すなわち,どちらの規約表現を選択した場合にもパラメータ
Q の設計による制御器特性の差異はない。
次の左規約分解表現された制御器について考える。
C=(Y~−QN~)−1(X~+QD~)
閉ループ伝達関数は次のように記述される。
Gc=(I+PC)−1PC=P(I+CP)−1C=N(D+CN)−1C=N{(Y~−QN~)D+(X~+QD~)N}−1(Y~−QN~)C=N(X~+QD~)
任意の極配置を有する伝達関数を
Gcd として,等しい極配置を有する伝達関数
NGcd を実現する
Q は次のように表される。
Q=(Gcd−X~)D~−1
次に示すフィードバック制御系について考える。
yuCC0=P(u+d)=C(r−y)=(Y~−QN~)−1(X~+QD~)=Y~−1X~
この系では
u について次の代数方程式が成立する。
u⇔(Y~−QN~)u⇔u=(Y~−QN~)−1(X~+QD~)(r−y)=(X~+QD~)(r−y)=Y~−1{QN~u+(X~+QD~)(r−y)}=Y~−1QD~r+C0(r−y)+Y~−1Q(N~u−D~y)
ここで,
N~u−D~y は外乱に関する情報を含む。
N~u−D~y=N~u−N~(u+d)=−N~d
したがって,フィードバック制御器の作用は外乱フィードバックと出力フィードバックから構成される。
u=Y~−1QD~r+C0(r−y)−Y~−1QN~d
また,出力
y は次のように記述される。
y⇔yyryd=P((Y~−1QD~+C0)r−Y~−1QN~d−C0y+d)=yr+yd=(I+PC0)−1P(C0+Y~−1QD~)r=N(X~+QD~)r=(I+PC0)−1P(I−Y~−1QN~)d
Youla パラメトリゼーションでは
Q∈Ω に設計自由度が与えられており,外乱抑圧特性の調整が可能であることを示している。このパラメータは外乱から出力までの伝達関数の極に作用しないため,高い自由度を以て選択することができる。
Youla パラメトリゼーションはフリーパラメータを用いて外乱抑圧特性の調整が可能であることを示したが,参照値追従特性もこれに影響を受ける。これは1自由度制御系固有の問題であり,2自由度制御系の構築によって解決される。2自由度制御系を構築するため,制御入力
u についてフィードフォワード制御入力
uff およびフィードバック制御入力
ufb を用いて次のように記述する。
uuffufb=uff+ufb≡DKr≡C(r−NKr)=(Y~−QN~)−1(X~+QD~)(NKr−y)
ただし,
K は参照値に対する平滑器であり,システムをプロパにするために使用するものとする。ここで,制御入力
u,ufb は次の代数方程式を満たす。
ufb∴u=Y~−1{QN~ufb+(X~+QD~)(NKr−y)}=Y~−1[Q{N~(ufb+DKr)−D~y}+X~(NKr−y)]=C0(NKr−y)+Y~−1Q(N~u−D~y)=C0(NKr−y)−Y~−1QN~d=DKr+C0(NKr−y)−Y~−1QN~d
続いて,出力
y の代数方程式より以下の解を得る。
y∴y=P{DKr+C0(NKr−y)−Y~−1QN~d+d}=P{(P−1+C0)NKr−C0y+(I−Y~−1QN~)d}=NKr+(I+PC0)−1P(I−Y~−1QN~)d
以上より,参照値追従特性と外乱抑圧特性が独立設計可能となる。