線形制御系設計

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線形システムの安定性

安定なシステムとは,有界な入力に対してシステムの状態量が有界かつその状態量が有限時間内に定常状態に遷移するものを指す。線形システムを対象とした場合,その安定性はシステムの伝達関数の極位置から判断することができる。ここでは線形制御系の安定性を確認する方法について述べる。

システムの安定条件

システムが安定であるとは、有界の外生入力に対して出力が有界となることである。線形システムにおいてこの条件を満たすためには、システムの特性多項式の全ての根の実部が負となる必要がある。

信号の有界性

信号が有界となる条件は、信号のラプラス変換の全ての極が複素左平面に存在することである。ヘヴィサイドの展開定理より、有理関数形式のラプラス変換 F(s)F(s) に対して原関数 f(t)f(t) は以下のように表される。
F(s)=i=1pj=1niAij(sai)jAij1(nij)!limsaidnijdsnij[(sai)niF(s)]f(t)=i=1p(j=1niAij(j1)!tj1)eait\begin{align} F(s) &= \sum^{p}_{i=1}\sum^{n_{i}}_{j=1} \frac{A_{ij}}{(s-a_{i})^{j}} \\ A_{ij} &\equiv \frac{1}{(n_{i} - j)!} \lim _{s\rightarrow a_{i}} \frac{d^{n_{i}-j}}{ds^{n_{i}-j}}[(s - a_{i})^{n_{i}}F(s)] \\ \rightarrow f(t) &= \sum^{p}_{i=1} \left( \sum^{n_{i}}_{j=1}\frac{A_{ij}}{(j-1)!}t^{j-1} \right) e^{a_{i}t} \end{align}
ここで、原関数 f(t)f(t) に対して tt\rightarrow \infty の極限値が存在する条件は  Re[ai]<0 \forall\ {\rm Re}[a_{i}] \lt 0 となる。

フィードバック系の安定条件

次のフィードバック制御系を考える。
y(s)=P(s)(u(s)d(s))u(s)=C(s)(r(s)y(s))\begin{align} y(s) &= P(s)(u(s) - d(s)) \\ u(s) &= C(s)(r(s) - y(s)) \end{align}
ここで、r,u,y,dr, u, y, d は指令値、制御入力、出力、外乱を表し、P,CP, C はプラントおよびフィードバック制御器を表す。この系において出力は次のように記述される。
y=P(C(ry)d)y=PC1+PCrP1+PCd\begin{align} y &= P(C(r - y) - d) \\ \Leftrightarrow y &= \frac{PC}{1 + PC}r -\frac{P}{1 + PC}d \end{align}
外生入力は共通の特性方程式を持ち、各入出力伝達関数の極配置も共通する。続いて、プラントおよび制御器が既約な有理関数形式で表現される場合について考える。
P(s)=Np(s)Dp(s)C(s)=Nc(s)Dc(s)\begin{align} P(s) &= \frac{N_{\rm p}(s)}{D_{\rm p}(s)} \\ C(s) &= \frac{N_{\rm c}(s)}{D_{\rm c}(s)} \\ \end{align}
このとき、出力は次のように記述される。
y=NpNcNpNc+DpDcrNpDcNpNc+DpDcd\begin{align} y &= \frac{N_{\rm p}N_{\rm c}}{N_{\rm p}N_{\rm c} + D_{\rm p}D_{\rm c}}r -\frac{N_{\rm p}D_{\rm c}}{N_{\rm p}N_{\rm c} + D_{\rm p}D_{\rm c}}d \end{align}
この出力が有界となる条件は、全ての極の実部が負となること、すなわち既約表現を用いて記述された次の特性多項式 ϕ\phi の全ての根の実部が負となることとなる。
ϕ(s)=NpNc+DpDc\begin{align} \phi(s) = N_{\rm p}N_{\rm c} + D_{\rm p}D_{\rm c} \end{align}

不安定な極零相殺を有する系

既約表現を用いた判別方法では、フィードバックループ内部で不安定な極零相殺が発生する場合であっても安定性を判別することができる。プラントが不安定な極を持つものとし、以下のように表現される場合について考える。
P(s)=Nps(s)Dps(s)Dpu(s)\begin{align} P(s) &= \frac{N_{\rm ps}(s)}{D_{\rm ps}(s)D_{\rm pu}(s)} \end{align}
ただし、Nps,DpsN_{\rm ps}, D_{\rm ps} は複素左半平面の因子を持つ多項式、DpuD_{\rm pu} は複素右半平面の因子を持つ多項式とする。ここで、制御器がプラントの不安定極を相殺する不安定零点を持つ場合について考え、以下のように設計されるものとする。
C(s)=Ncs(s)Dpu(s)Dcs(s)\begin{align} C(s) &= \frac{N_{\rm cs}(s)D_{\rm pu}(s)}{D_{\rm cs}(s)} \end{align}
ただし、Nps,DpsN_{\rm ps}, D_{\rm ps} は複素左半平面の因子を持つ多項式とする。このとき、極零相殺を考慮して一巡伝達関数 GoG_{\rm o} を計算し、特性方程式 ϕ\phi を記述すると以下のようになる。
Go=PC=NpsNcsDpsDcsϕ(s)=1+Go=NpsNcs+DpsDcsDpsDcs\begin{align} G_{\rm o} &= PC = \frac{N_{\rm ps}N_{\rm cs}}{D_{\rm ps}D_{\rm cs}} \\ \phi(s) &= 1 + G_{\rm o} = \frac{N_{\rm ps}N_{\rm cs} + D_{\rm ps}D_{\rm cs}}{D_{\rm ps}D_{\rm cs}} \end{align}
このように、極零相殺を考慮した一巡伝達関数を使用した場合には特性方程式に不安定極の影響が現れない。実際に出力について確認すると、外乱-出力伝達関数が不安定な極を持つことが確認できる。
y=NpsNcsNpsNcs+DpsDcsrNpsDcsNpsNcs+DpsDcs1Dpud\begin{align} y &= \frac{N_{\rm ps}N_{\rm cs}}{N_{\rm ps}N_{\rm cs} + D_{\rm ps}D_{\rm cs}}r - \frac{N_{\rm ps}D_{\rm cs}}{N_{\rm ps}N_{\rm cs} + D_{\rm ps}D_{\rm cs}}\frac{1}{D_{\rm pu}}d \end{align}
一方で、既約表現を用いて特性方程式を記述する場合には、以下のように不安定極を考慮することができる。
ϕ(s)=NpsNcsDpu+DpsDcsDpu=(NpsNcs+DpsDcs)Dpu\begin{align} \phi(s) &= N_{\rm ps}N_{\rm cs}D_{\rm pu} + D_{\rm ps}D_{\rm cs}D_{\rm pu} \\ &= (N_{\rm ps}N_{\rm cs} + D_{\rm ps}D_{\rm cs})D_{\rm pu} \end{align}

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