線形システムは重ね合わせの原理より入出力伝達特性を周波数領域で議論することができる。
重ね合わせの原理より,線形システムでは各周波数について入出力の振幅増幅率と位相差が与えられる。すなわち,入出力伝達特性は周波数を基準として議論することができる。伝達関数
G(s) に対して以下の極限が存在する場合にこれを周波数伝達関数
F(ω) と呼ぶ。
F(ω)=s→jωlimG(s)
今,
G(s) が重複度
ni の安定極
pi (i=1...m) を持つシステムとする。また,
G(s) の極およびその重複度を
px, nx として以下のように記述する。
pxnx∈Rm∈Rm
このシステムに対して振幅
C の周波数
ωa の正弦波
u(t) を入力することを考える。
u(t)=Csin(ωat)
このとき,システムの出力は次のように記述される。
Y(s)U(s)=G(s)U(s)=s2+ωa2Cωa
U(s) の極
±jωa は虚軸上に存在し,
G(s) の安定極
pi と重なることはない。ここで,
Y(s) の極およびその重複度を
py, ny とすると,次のように記述される。
pyny=[px−jωa+jωa]∈Rm+2=[nx11]∈Rm+2
このとき,
Y(s) は次のように部分分数分解表現される。
Y(s)Ai,j=i=1∑m+2j=1∑ny,i(s−py,i)jAi,j=i=1∑mj=1∑nx,i(s−px,i)jAi,j+s+jωaAm+1,1−s−jωaAm+2,1≡(ny,i−j)!1s→py,ilimdsny,i−jdny,i−j[(s−py,i)ny,iY(s)]
また,
Am+1,1, Am+2,1 は以下のように記述される。
Am+1,1Am+2,1=s→−jωalim(s+jωa)Y(s)=s→−jωalimG(s)s−jωaCωa=−2jCG(−jωa)=s→+jωalim(s−jωa)Y(s)=s→+jωalimG(s)s+jωaCωa=+2jCG(jωa)
ここで,逆ラプラス変換から原関数
y(t) を以下のように計算することができる。
y(t)=i=1∑m(j=1∑nx,i(j−1)!Ai,jtj−1)epx,it+Am+1,1e−jωat+Am+2,1ejωat=i=1∑m(j=1∑nx,i(j−1)!Ai,jtj−1)epx,it+2jC(ejωatG(jωa)−e−jωatG(−jωa))
システムの極が全て安定であるため,
px,i<0 であり右辺第一項は時間経過とともに
0 に収束する。すなわち,十分に時間が経過した際には以下の式が成立する。
y(t)=2jC(ejωatG(jωa)−e−jωatG(−jωa))
ここで,
G(jωa) と
G(−jωa) は共役な複素数であるため,次の性質を持つ。
∣G(jωa)∣∠G(jωa)=∣G(−jωa)∣=−∠G(−jωa)
G(jωa) の振幅および位相を
gG, ϕG と表現すれば,
G(jωa), G(−jωa) は次のように記述される。
⇔gG≡∣G(jωa)∣ϕG≡∠G(jωa){G(jωa)=gGejϕGG(−jωa)=gGe−jϕG
したがって,
y(t) は次のように表現される。
y(t)=gGC2j1(ej(ωa+ϕG)t−e−j(ωa+ϕG)t)=gGCsin(ωat+ϕG)
すなわち,入出力信号は等しい周波数を持ち,入力は振幅増幅
gG および 位相変動
ϕG を伴って出力となる。この振幅・位相変化特性は周波数伝達関数を用いて記述することができる。
gGϕG=∣F(ωa)∣=F(ωa)
有理関数形式の周波数伝達関数
F(ω) が分子多項式および分母多項式が共通因子を持たない実係数複素多項式
N(ω),D(ω) によって表現される場合について考える。
F(ω)≡D(jω)N(jω)
このとき、振幅・位相特性は以下のように記述される。
∣F(ω)∣∠F(ω)=∣D(jω)∣∣N(jω)∣=∠N(jω)−∠D(jω)
複素数
c が実数
a,b を用いて以下のように直交座標表示される場合について考える。
c≡a+jb
このとき、複素数
c は振幅
∣c∣ と位相
∠c を用いて以下のように極座標表示することができ、振幅成分と偏角成分の積として表現することができる。
c∣c∣∠c=∣c∣ej∠c=a2+b2=tan−1(ab)
すなわち、任意の複素数
di (i=1,...,n) の総乗
e について、以下の式が成立する。
e∣e∣∠e≡i=1∏ndi=i=1∏n∣di∣=i=1∑n∠di
周波数伝達関数の積についても同様の規則が成立し、合成された伝達関数の振幅は各伝達関数の振幅の総乗、位相は各伝達関数の位相の総和となる。